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「つくる責任 つかう責任」を果たす印刷とは 印刷会社が取り組む温室効果ガスの排出削減
SDGs 2023.01.10

「つくる責任 つかう責任」を果たす印刷とは 印刷会社が取り組む温室効果ガスの排出削減

ものを作れば何らかの「負」は必ず生まれるもの。しかし、それを単純に「仕方ないこと」として片づけるのではなく、少しでも減らす努力をしていきたいと、西川コミュニケーションズでは各種取り組みを進めてきました。

その中でも今回は、日本の中小企業としてはいち早くSBT認定を取得して取り組みを進めている、温室効果ガスの排出削減についてご紹介。世界中で加速するカーボンニュートラルの動きにもつながるこの取り組みは、どのように進んでいるのでしょうか。当社のSDGsの取り組みの責任者である執行役員の鈴木勝也が、グラフィックアーツセンター(GAC)※で各種排出物の削減に取り組むセンター長の寺島尚史、排出物などの数値化を担当する深田青邦と語りあいます。

※グラフィックアーツセンター(GAC):NICOの印刷工場の名称。

印刷会社として、「つくる責任 つかう責任」に向き合うために

鈴木: 西川コミュニケーションズ(以下、NICO)のSDGsの取り組みに関しては、2022年1月のブログでもお話ししました。そこでご紹介した「SDGsを考える会」では、有志のメンバーが自分たちに何ができるのかを考え、社会貢献活動や社内への啓蒙活動などさまざまなSDGs活動を実行しています。

2022年1月のブログはこちらから
持続可能な社会づくりを目指す、西川コミュニケーションズのSDGs

さらに2022年8月には、プロジェクトごとにチーム分けされた「SDGs推進委員会」が発足。その中で、印刷事業に関わるプロジェクトとして進められているのが、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出削減です。


寺島: そして今後は、環境維持への責任をもって自社の排出物を減らす、もっと言えばなくそうと努力をしている会社かどうかということが企業の信用維持につながる時代になると思います。いや、もうなってきていると言ってもいいでしょう。SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」にもあるように、持続的な消費と生産のバランスを目指すことは、工場を持つ事業者としての務めではないでしょうか。

印刷工場からの排出物はさまざまな種類がありますが、今回お話しするのは二酸化炭素の排出削減についてです。世の中のカーボンニュートラルの流れが加速していることもあり、NICOでも取り組みの柱の一つとなっています。

カーボンニュートラルとは?

温室効果をもたらす「カーボン(二酸化炭素)」を「ニュートラル(中立)」の状態にすること。日本では二酸化炭素(CO2)に加えてメタン、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスが温室効果ガスの対象となっています。

温暖化防止にはこれらのガスの削減が重要となるものの、排出をゼロにすることは現実的ではありません。そこで「排出」された分から同じ量を「吸収」または「除去」することで、全体としてゼロにするという考え方です。

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温室効果ガス排出削減の第一歩として、SBT認定を取得

鈴木: プロジェクトとしてまず取り組んだのが、SBT認定です。NICOの温室効果ガスの削減目標を設定し、その内容を中小企業版SBT認定(SMEs)に申請して認定を受けました。
なお当社が認定された2022年11月1日時点で、日本の認定取得企業は295社、うち中小企業は168社。まだまだ珍しい認定で、当社は日本の中小企業としてはかなり早い申請だったようです。

SBTはパリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標です。
SBTの詳細はSDGs広報「つつつ」の記事をご覧ください

【SBT認定に申請したNICOの温室効果ガス削減目標】

「産業革命以降の気温上昇を2度未満にするために、2018年のデータを基準に、2030年までにGHG※排出量を30%削減する」
※GHG:温室効果ガス(Greenhouse Gas)の略


深田: この目標設定に先駆けて必須となったのが、現在の排出量の把握ですね。SBT認定の申請にはサプライチェーン全体の排出量、つまり製品の原材料・部品の調達から製造、物流、販売、廃棄など、一連の流れにおいて発生する温室効果ガスの把握が必要になります。

サプライチェーン排出量
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

fig02.jpg出典:環境省 「排出量算定について - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」

これらの排出量のうち、NICOが該当する中小企業版のSBT認定で求められるのは、Scope1、2の削減です。
なおNICO場合、Scope1は印刷物の乾燥に使うガス、社用車に使用するガソリンなど。Scope2は全拠点の電気使用量となります。内訳は8割ぐらいが印刷工場からの排出量でした。やはり機械がある分、どうしても多くなります。

このscope1と2を、2030年までに30%削減することがNICOの目標ということですね。


鈴木: もちろんSBT認定の達成は「目標」であって、本来の「目的」はあくまで企業として「つくる責任 つかう責任」を果たすということです。その目標であるSBT認定は達成しなければ罰則があるわけではなく、あくまでも自社が独自に宣言する社会への約束のようなものです。とはいえ排出量と目標に対する進捗状況は毎年公表していかねばなりませんし、取り組みはこれからが本番。この目標をどうやって達成していくのかが次のフェーズですね。


深田: 実はエネルギー消費や排出量に関する数値自体は、以前から一部では算出していたのです。特にGACではSDGsの基本理念や目的と一致する2つのISO規格(9001、14001)を取得しており、ISO担当者が持つ知識やマネジメントのノウハウを活用して細かく数値を出していました。

ただ、例えば現状の電気使用量は提示されていたものの、どこまで減らすのか、どういう取り組みで減らしていくかといった部分までは、GACの従業員全体に落とし込めてなかったところがありました。

今後は、これまで出してきた数値も含めどのような手段で減らしていくか、より具体的な活動目標に落とし込んでいくことになります。

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いま、温室効果ガスの排出削減に取り組む意義

鈴木: SDGsプロジェクトとして排出削減に取り組み始めたのは2022年からですが、温室効果ガスの排出量を削減するというのは省エネ=コスト削減に直結する話でもあり、以前から当たり前に取り組んできたことでもあるのですよね。


寺島: 経営の面でもそうですし、製造業者の責任としてもそうですね。SDGsやカーボンニュートラルといった新しい考え方の下で新たなやり方を模索している部分はありますが、「自社の活動で排出したもの、使ったものは、元に戻す」という責任は、ずっと変わらない製造業者の責任だと思います。
そして今後は、カーボンニュートラルの取り組みの加速もあって、これまで以上にそういった取り組みが社会から求められてくるに違いありません。

必要性を増すESG投資への対応

鈴木: まず無視できないのはESG投資への対応ですね。環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視するESG投資の波は高まっており、排出物削減の取り組みはこの投資すべき企業としての判断材料となっています。

投資の話なら大企業にしか関係ないかといえば、そんなことはない。中小企業であっても上場企業との取引があれば、サプライチェーンの一部として得意先から対応を求められることになります。実際、当社でもすでにクライアントから要請を受けて排出量を算出して報告しています。


深田: カーボンニュートラルはサプライチェーン全体の排出量で考えます。クライアントからすればscope3に入るNICOの排出量も、当然把握しなければならないということですね。

ちなみにこの要請の中には、クライアントからはNICOのscope1~3まで出してほしいとのご要望がありました。scope1、2はSBT認定とも合致していたのでしっかり算出してあったのですが、scope3に関しては中小企業版では報告の必要がないため、その時点では準備ができていませんでした。算出自体は求められるので進めてはいたものの、こんなに早く必要になるとは思っていなかったので、そこは少し大変でしたね。


鈴木: 数値を意識した排出削減に取り組み始めてまだ日が浅かったこともあり、意識の面でも気づかされることが多かったですね。排出量をしっかり把握することの大変さと、そういった数字をきちんと管理しなければ減らしていけるわけがないというのを実感しました。

「印刷=環境負荷が高い」というイメージの払拭

鈴木: それからもうひとつ、社内的なモチベーションとしては「印刷=環境負荷が高い」という負のイメージを少しでも緩和したいという思いもあります。

現在はともすると「デジタルはよくて、印刷は悪い」といった極端な話になりがちです。しかし、例えばモバイル機器は見るためにも電力を使うし、機器の製造過程でも大量に電力を消費するという面もあるわけで、全体で見たときに本当にデジタルのほうが環境負荷が低いのか、しっかり考える必要があると思うのです。


深田: 紙が製造され、印刷され、実際にユーザーの手もとに情報が届くまでの間に発生する環境負荷がどの程度なのか、実際のところはまだわかりません。NICOの関わっている箇所だけでなく、調達から廃棄まで可視化するサプライチェーン全体の視点で俯瞰して二酸化炭素の排出量が把握できるようにしたいですね。


鈴木: もちろん排出量の比較だけではなく、伝えたい場面や内容、ターゲットによっては紙のほうが適している場合もありますしね。印刷の負のイメージを払拭し、印刷とデジタルを必要に応じて使い分けしていければと思っています。

経済活動と排出削減のバランス

深田: ただ、ここで注意が必要なのが、二酸化炭素の排出量は多いから悪いというものではない、ということです。経済活動を続けていくのなら何らかの排出は必ずあるものですし、企業の事業規模や内容によって排出量は大きく変わるものですから。


寺島: 経済活動を継続させていくことは企業として当たり前のことなので、省エネだけではなく、ビジネスだけでもなく、両立を考えた上での努力を続けていかなければなりませんね。

例えばGACでは印刷機を入れ替えたことで、二酸化炭素の大幅な削減が見込まれています。たしかにそれは当社のカーボンニュートラルの取り組みの中での一事象ではありましたが、他方入れ替えの目的は新たなビジネス分野の受注拡大を図ってのことです。

また、私たちは製造業である以上、自社設備で生産可能なものは自社にて生産を行います。これはどこの会社でも同じこと。つまり製造業は二酸化炭素の排出を避けては通れません。その中でいかに個々が工夫し、努力し、手間を惜しまずこの問題に取り組めるか?そこが大事であると考えます。


鈴木: ひとつテーマとして、「必要十分」という考え方があるのではないでしょうか。それこそバブルの時代は華美なもの、必要以上のクオリティのものを世間が求めるような風潮がありましたし、我々もその求めに応じてきました。そういうところは見直さないといけないと思います。

伝えたい内容やターゲットに即した、必要十分な成果物であること。そして、作るための電力や資材も必要十分にしていくこと。印刷時にどうしても必要となる予備紙を減らす、インクの量を極力最低限にするなど、できることはまだまだあるはず。

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必要十分を実現するカイゼン活動

深田: ムダを省くというところでは、TPS※の考え方を取り入れたカイゼン活動が重要ですね。これもNICOでSDGsの取り組みが始まる前から取り組んできたことで、原価低減と生産性の向上に大きな成果を上げてきました。
 
原価低減はムダの削減にもつながっていきます。それが結果的にSDGsにつながるのは確かなのですが、この活動でどれだけ温室効果ガスの排出が抑えられたのかまでは見える化されていません。今後はその成果を見える化していきたいですね。

※TPS:Toyota Production System(トヨタ生産方式)。生産現場におけるムダを見える化し、徹底的な排除を行うことで、原価低減を行い続ける考え方。


寺島: カイゼン活動は生産性向上と原価低減へのあくなき挑戦。テーマはほかにもありますが、この2つをやや少し掘り下げて言うと、稼働のムダ、資材のムダ等を削減して成果を出すことです。

そんな考えをもって各部署いろいろ取り組んでいるのですが、各種のムダ削減は実は図らずも二酸化炭素削減に直接的にも間接的にもつながっていくのですよね。そう考えるとよりカイゼンに力を注いでいこう。そんな気も湧いてきます。

もちろんできること、できないことあるかと思いますが、排出削減での今後のテーマは「削減値の見える化」でしょうか。実際どれくらい削減になっているのか数値で示すことで、カイゼン活動をしている従業員にも削減への意識を持ってもらえるようになればと思います。


深田: そしてカイゼン活動に限らず、明確な数値を示し、現状把握をすることは、次のフェーズの第一歩だと思っています。

そこで大切になってくるのが、どの部分にムダがあるかが適切に把握できる分類です。例えば電気使用量なら部署別で分けるのか、機械別で分けるのか、それとも建物別で分けるのか。自分が何をしなければいけないか見えてくるような、適切に分類された数値を提示していきたいですね。

「2030年までに二酸化炭素排出量を30%削減する」という目標をどのように達成していくか。その大きな目標からブレイクダウンし、従業員一人ひとりが「自分がこれを達成したら、NICOの目標も達成できる」といった目標を持つことがひとつのゴールではないでしょうか。

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時代に対応していくために

寺島: 従業員一人ひとりに目標を落とし込んでいくためには、自分ごとに置き換えていくことが必要ですね。例えばカーボンニュートラルやSDGsを前面に出して、これは地球環境の保全ために必要な国際的な取り組みで......と訴えかけても、テーマが壮大すぎてなかなかピンとこないと思うのです。それよりも、自分の生活や家族に置き換えて考えられるような呼びかけのほうが響くのではないでしょうか。

 
鈴木: そうですね。個人的に、交通事故の削減にも例えられるのではと思っています。交通事故を減らそうとすれば、交通事故の発生件数を提示してその数を減らしていきましょうということになりがちですよね。しかしまず事故が起これば被害者はもちろん加害者側にもたくさんの不幸をもたらす、だから交通ルールを守らなくては、という思いが先にあります。

「自社の活動で汚したもの、使ったものは、元に戻す」という企業としての責任が果たせなければ、自分や自分を取り巻く社会にこんな影響がある、といった意識が根底になければうまくいかないでしょうね。


寺島: 同感です。世の中は間違いなく排出削減、いやそれも含めた環境改善の方向に向かっています。そういった方向性のもと、当社のお客様からも対応を求められることが増えてきました。この方向性はメーカーさんや協力会社さんも変わりなく、さまざまな取り組みをしていらっしゃいます。つまりこの動きはもう業種や受発注の商流を越えた世の中の潮流になっており、これからのビジネスはその潮目に乗ったものでなければなりません。
でなければ会社の業績は上がらなくなってくる時代がもうそこまで来てるかと。結果それは自分にも直結し......と、要するに負の連鎖を招いてしまいます。
なので大げさに煽るのはよくないですが、正しい方向を向いた適切な危機感は社員ひとりひとりが持つべきではないか。そんなふうに感じますね。

鈴木: 逆に言えば、この潮流にしっかりと対応していくことが、この先の時代を生き抜いていく一つの条件になるのではないかなと。

ルールを守って交通事故が減れば、不幸になる人も減る。世間も良くなるといった流れが、温室効果ガスの排出削減、ひいてはSDGsに置き換えて考えられれば、おのずと取り組みも進むと思います。
これはSDGsの推進という話の中で再び注目を浴びている近江商人の『売り手よし、買い手よし、世間よし』の「三方良し」の心得にも通じるのではないでしょうか。従業員にもそういった意識を持ってもらい、一丸となって取り組んでいきたいですね。

「つくる責任 使う責任」を果たすための排出削減の取り組みは、まだまだ一合目を上り始めたばかり。先はなかなか険しいですが、未来へ向けてもがきながら進んでいきましょう。

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お問い合わせ

鈴木勝也

西川コミュニケーションズ株式会社
執行役員

印刷会社の営業職として、30年余にわたり大手メーカーの印刷物作成をはじめとする販促活動に携わる。 1990年代後半に訪れたデジタル化の波を「得意先のためになる」と捉え、印刷営業の枠を超えて、制作業務のDTP化や販促素材のデータベース化などをいち早く達成・推進。
その後も新しい技術やサービスを得意先目線で考え続け、さまざまなデジタル化を推進して現在に至る。

寺島尚史

西川コミュニケーションズ株式会社
常務取締役 グラフィックアーツセンター(GAC)センター長

営業として30年余、大手量販店のプロモーション、販促物作成に携わる。
2019年8月よりGAC担当となり、一般製造業務、ダイレクトメール業務、ロジ&BPO業務を自社にて一気通貫~集中管理できる体制づくりを推進。現在に至る。

深田青邦

西川コミュニケーションズ株式会社
経営企画室

ディ・スタイル西川にて15年以上にわたり製版業務に携わる。その後GACでの業務改善活動をきっかけとして現在、経営企画室にて全社改善業務に取り組む。