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「学びなおし」が成長のカギ 変化の時代を生きるための人材教育とは
社内活動 2022.06.24

「学びなおし」が成長のカギ 変化の時代を生きるための人材教育とは

ビジネスのDXが急加速する中、デジタル人材の確保に欠かせないものとして注目されているのが従業員の再教育を意味する「リスキリング」。
しかし西川コミュニケーションズでは「リスキリング」が注目されるよりも前から人材教育の必要性を考え、幅広い人材教育に取り組んできました。

今回は、当社が実施してきた人材教育の取り組みと、そこで浮かび上がった課題やその対応について、人事責任者の神谷昌宏にインタビューしました。

なぜ、どのように西川コミュニケーションズは人材教育を進めてきたのか?

―――まず、西川コミュニケーションズの人材教育の取り組みはいつごろから始まったのでしょう?
神谷: 2013年に社員のスキル習得をサポートするための教育プロジェクトチームが結成されました。それまでも書籍の購入や研修参加の費用を負担するなどのサポートは各部署単位でありましたが、全社的な取り組みとして明確にスタートしたのは2013年からですね。

当時はまだ人材教育においてリスキリングという言葉は注目されておらず、当社内でも「学びなおし」や「自己啓発」といった言い方をしていました。


―――それほど早くから人材教育に取り組んできた背景には、何があったのでしょう?
神谷: どの企業でもそうだとは思いますが、やはり急激に変化する時代への危機感ですね。「今のスピード感のままやっていては、会社としても個人としても、とても時代の変化に追いつけない」という危機感を強く持っていました。

この激動の中で生き残っていくためには、やはり自分たちのスキルや知見を時代に対応したものに更新していくことが必須になります。そこで、新しい知見やスキルを身に着けるための学習時間をしっかりとっていこう、従業員に対しそのためのサポートをしていこうというのが、教育プロジェクト発足の目的でした。


―――時代に対応したスキルや知見となるとやはり現在はデジタル分野のものになるかと思いますが、教育プロジェクトの狙いもデジタル人材の育成だったのでしょうか?
神谷: いいえ、特に分野の指定はありません。西川コミュニケーションズが求める理想の人材像は「先進技術を柔軟に取り込みながら、新しい発想でビジネスモデルを構築できる人」です。先進技術となればもちろんデジタル分野の学びは欠かせませんが、だからといってそこのみ学べばいいとは考えていません。

以前は「ゼネラリストなら広く浅く、スペシャリストなら得意分野のことのみを知っていればいい」という考えもありましたが、それでは変化の早いこの時代にはもう対応できないと思います。
複数の分野にまたがって、広く浅く知っておく部分と深掘りする部分の両方を身に着けたT型人材が必要ですね。


―――幅広い人材の育成は、どのように進めてきたのでしょうか?
神谷: 人材教育にもさまざまな種類がありますが、当社が進めてきたのは大きく分けてリスキリング、アップスキリング、アウトスキリングの3つになります。

リスキリング

180度違う領域をゼロベースで学びなおすことを指します。言葉本来の意味は「職業教育の再開発」や「再教育」といったところですが、現在ではデジタル人材の育成という意味で使われることが多くなっています。背景にあるのは、急速に拡大するデジタルシフトの流れ。2025年までに世界中で8,500万件の仕事が人の手から機械に置き換えられ、機械やデジタルに適応した9,700万件の新たな仕事が生まれると予測されています※。
※世界経済フォーラム「The Future of Jobs Report 2」

当社では2016年の3DCG事業部の立ち上げがまさにリスキリングに当たります。これまでに経験のない3DCG関連のスキルを一から学ぶため、半年間は全業務時間をリスキルにあて、専門学校への通学や講師を招いての勉強会などを集中的に行いました。

アップスキリング

現在のスキルの延長線上で、これまでアナログな方法でやってきたものをデジタルに置き換えたり、新しいツールを使ってより高度化・効率化するといったことを指します。

例えば、紙媒体のデザインを手掛けてきたデザイナーがWebページのデザインをするにあたり、Adobe IllustratorやPhotoshopといった使い慣れたDTP由来のソフトから、XDのようなWebに適応したソフトを使うようになることがアップスキリングです。

アウトスキリング

本来は人員整理の対象となる従業員への転職支援のことを指しますが、当社では独立やレベルアップのための転職を視野に入れて学ぶ人への支援をアウトスキリングに分類しています。

これは当社のユニークなところだと思いますが、昔から会社に頼らずに生きていける自律型人材を育てていくべきだという考えがあり、そのために必要なスキルセットの習得もサポートしています。会社に頼らずということはつまり独立や転職を視野に入れて学ぶという人もいるのですが、会社としてはそれも応援しています。
実際、過去に独立や転職をした方とはその後もコネクションを保って一緒に仕事を続けてきました。

―――現在、人材教育といえばリスキリングと思われがちですが、それだけではないのですね。
神谷: 世の中でもリスキリングの注目度は非常に高く、ここ数年で社外の方からも西川コミュニケーションズの人材教育をリスキリングとして評価していただくことが増えてきたのですが、実際はアップスキリングやアウトスキリングの要素もグラデーションになっています。
当社の人材教育はやはり「リスキリング」ではなく「学びなおし」や「自己啓発」といったほうがいいと思っています。

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現在、進行中の具体的な取り組みについて

―――では、さらに具体的な取り組みについてお聞かせください。現在ではどのような取り組みが進行中でしょうか?
神谷: 現在、教育プロジェクトが推進している主な取り組みは以下の3つです。

  • 資格取得のサポート
  • 制作部のリスキリング
  • 課題図書の配布

資格取得のサポート

個人が希望する資格取得の費用を会社が全額負担するほか、全社員に「ITパスポート」と「ウェブデザイン技能検定」の取得を推奨しています。

なお、ウェブデザイン技能検定は社内で同レベルの試験を実施しており、それに合格できれば社内的にはウェブデザイン技能検定に合格したとみなしています。
各自のPCから都合のいい日時に自由に受験でき、コードの採点もGAS(Google Apps Script)を利用して自動化。人手をかけずに運用できるフローを社内で構築しました。

社内資格を作ったのは、ウェブデザイン技能検定が推奨資格となったちょうどそのころにコロナ禍が始まり、試験会場まで出向くことを会社として求めることが問題になったためです。必要に迫られてのことでしたが、自動採点のスクリプトを含め運用フローをすべて社内で構築したため、社内資格の運用そのものがリスキリングにもなりました。

【取得推奨資格】
全社員
・ITパスポート
・ウェブデザイン技能検定

希望者のみ
・G検定
・E資格
・情報セキュリティマネジメント

制作部のリスキリング

名古屋本社の制作グループ内に4つのリスキリングチームを作り、業務時間の二割を使ってそれぞれ学習や実践を通したスキル習得を進めていただいています。

各チームのテーマは、制作スタッフの方々に今後何に挑戦していきたいかを主体的に考えていただいて決定しました。実際の活動も各チームのメンバ―主導で進めていただいています。教育プロジェクトは進捗について報告を受け、経営側への報告や予算の調整などを担当しています。

現在は名古屋本社の制作グループ内のみで実施していますが、運用がある程度固まった段階で別部署に横展開する予定です。

【活動中の4つのグループ】
■プログラミングなどのアプリ開発

■動画サービスの開発

■自社開発のマスキングテープブランド「bande」のプロモーション
 「bande」公式サイトはこちら

■SNSを利用した広報・マーケティング
 オープン社内報「つつつ」はこちら

課題図書の配布

皆さんに読んでおいていただきたいという本を課題図書として配布しています。だいたい教育プロジェクトで選定した全社共通のものが1冊、各部署で選定したいただいたものが1~2冊程度です。
全社課題図書は読了後に一言コメントを提出していただき、社内ポータルサイトで公開しています。

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全従業員に配布された課題図書

取り組みの中で見えてきた成功のポイントと、課題とは?

―――取り組みをスムーズに進めるためのポイントなどはありますか?
神谷: やる気のある人が見つかれば、会社としてこういうチャレンジをしてほしいと個別に声をかけ、学習機会を持ってもらうようにすることですね。それはかなりの確率で学習の成果が出ています。


―――やる気のある人の情報をキャッチすることも重要になりますね。
神谷: そこはとても大事ですね。各部署のマネージャーに自部門のメンバーとうまくコミュニケーションとっていただき、誰が何をやりたがっているのか、どんなことが得意なのかといった情報を教育プロジェクトとも共有していただきたいと思っています。

コミュニケーションがうまくいっていないと、せっかくやる気のある人がいても見逃してしまったり、いざそういう話がキャッチできても既に別の役割がアサインされていてもう新しいことができない、といったことになります。


―――では、取り組みを進める上で難しいと感じる部分はどこでしょう?
神谷: 個別に声をかけるのはとてもうまくいくのですが、すべての社員に同じ意欲を持ってもらいたいとなると、途端に難しくなりますね。

あくまでも会社としては学びを支援をするというスタンスです。業務時間内にできる学びだけではもう追いつかないほど時代の変化は早く、業務時間外でも自己学習をどんどんしていってほしい、会社はそのための時間やお金をサポートしますよというフォロー体制をとっているのですが、それが押し付けだと感じる方もいます。また、教育にお金を使うよりも、今がんばってることに対する報酬を上乗せしてほしいという方もいます。

会社がこうしたいと思ってる部分と、従業員の方の受け取り方や認識に乖離がどうしてもあります。考え方や価値観が違う方との間にある溝を埋められるかといえば、なかなか難しいですよね。


―――他社の事例でも、やはりその溝が問題となることが多いようですね。
神谷: 180度違う分野を一から学ぶとなれば、どうしても溝はできてしまいますね。当社は各個人が何をやりたいのかという希望をかなり考えてくれる会社だと思いますが、それでもやはり完全に双方満足というのは難しい。

そして、そうやって希望を聞いてくれるというのは従業員にとってはありがたい反面、会社にとってはなかなかリスキリングが進まないマイナス面にもなっていると思います。


―――溝を埋めていくためにはどんな対応が考えられますか?
神谷: まず、すでに進んでいる取り組みとしては、社内向けの企業メッセージの発信があります。当社の信念や強みを整理してメッセージ化し、従業員に発信しているのですが、これは会社の考えを従業員のみなさんに理解していただくことにつながると思っています。

さらに今後やっていきたいこととしては、実際に目指していただきたい人材像の説明や人材育成のプランをもう少しはっきりと提示をしていくことですね。


―――人材像をはっきりと提示するということは、具体的なモデルのようなものを提示するということでしょうか?
神谷: 先にもお話ししたように、会社が求めている人材像は「先進技術を柔軟に取り込みながら、新しい発想でビジネスモデルを構築できる人」です。しかし具体的にはどういうスキルを持った人なのか知りたいという声があるのも確かで、こういうスキルを持ったプログラマーが5人必要です、といった段階までブレイクダウンして伝える必要があるのではと考えています。

ただ、スキルセットの段階までブレイクダウンした話となると、クライアントの都合や社会の変化次第であっという間に陳腐化してしまうという懸念もあって、難しいところなのですが。


―――デジタル分野のスキルは特に変化が激しいですね。
神谷: 自分たちがいま当たり前に使ってるスマートフォンも2000年代まで世の中になかったものです。それが今では当たり前になってるわけで、10年といわず、下手したら5年後でも世の中がどうなっているかわからない。そこから逆算してくと、やはり常に知識を刷新していかなければついていけなくなるだろうなと思います。

よく言われることですが「今は学びをやめたら収入が下がる時代だ」という言葉に危機感が集約されていますよね。学んだことの価値が低下しやすい、とても厳しい時代です。それをどうやって従業員のみなさんに実感していただけるように伝えていくのかが難しいのですが。


―――今後、溝は埋められると思いますか?
神谷: 根本的な価値観の相違は完全には埋められないだろうなとは思います。もちろん埋めるための努力を放棄することはないですが、悩みながら進めていくしかないと思っています。

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これからの取り組みと、その先に目指す西川コミュニケーションズの未来

―――では最後に、今後実施予定の取り組みについて教えてください。
神谷: まずは学習していただきたいeラーニングのコンテンツを選定して、従業員に提供することを考えています。希望者を募るのか、全社員が見られるようにするのかなどはこれから検討していきます。「勝手にやってください」とならないように、学習管理の仕組みは整えたいと思います。

資格取得の制度にも見直しが入ります。現在は資格取得の費用を負担しているだけですが、一部の高度な資格に関しては取得者に報奨金や資格手当といった報酬を設定する予定です。

さらに、足の長い話にはなりますが、専門技能を評価できるようなエキスパート職を含めた人事制度の見直しをやっていきたい。

こういったところが明確になってくると、成長することで得られるメリットがわかりやすくなり、学びへの意欲につながるのではと期待しています。


―――そしてその学びの先に、西川コミュニケーションズの目指す未来があるのですね。
神谷: 例えば製造業ではデジタルツインが注目されているように、今、現実空間とサイバー空間の垣根がどんどん薄れていますよね。今後当たり前にデジタルとリアルの相互フィードバックがされていく状態になればなるほど、幅広い学びが当たり前に求められることになっていくと思っています。

こういったことを理解してる人たちが、先進技術を自社のサービスに取り込んで新たなビジネスモデルを構築運用できるようになっていかなければ、会社は生き残れないのではないでしょうか。


―――そうなっていくことができると思われますか?
神谷: 簡単なことではないのは確かですが、新たなビジネスモデルを構築できる会社を目指して、人材教育を進めていきたいですね。

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神谷 昌宏

西川コミュニケーションズ 人事責任者 販促物の制作業務を担当後、制作部門マネジャーとして売上拡大に伴う体制構築・運用フロー策定に携わり、採用から教育計画・労務/品質/数字管理まで幅広く経験。クライアントへの出向を経て、現在は人事責任者として全社制度設計や教育施策の立案を担当。