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「Cookie廃止撤回」へとGoogleが方向転換。Webマーケティングの今後に変化はあるのか?
マーケティング 2024.08.29

「Cookie廃止撤回」へとGoogleが方向転換。Webマーケティングの今後に変化はあるのか?

マーケティング戦略においてもはや必須となったWebマーケティング。そこで活用されてきたCookieは、効果的な施策の実現に欠かせないものである一方、個人情報保護の観点から世界的に規制が進んできました。ところが2024年7月、Googleは方針を転換。自社のブラウザ「Chrome」でのCookie廃止を撤回すると発表しました。

Webマーケティングに大きな影響を持つGoogleのこの決定で、今後のマーケティング戦略に変化は訪れるのでしょうか。西川コミュニケーションズでWebマーケティングを担当している上谷桂一に話を聞きました。


Cookieの仕組みとWeb広告との関係

―――まずは基本的なところから確認させてください。Cookieとはどういうものなのでしょう。
上谷: Cookieとは、ユーザーがWebサイトを訪れた際に一時的にブラウザに保存される情報のことをいいます。これにより、ユーザーがいつ何のページを見たのか、そこでどんな行動をとったのかといったさまざまな記録がブラウザ側に残されます。

例えば、IDやパスワードの入力を求められる会員ページなどでも、一度ログインすれば次回からは自動的にログインできますよね。またECサイトでカートに入れた商品は次回訪問時にもカートに残っています。これらの機能はCookieによって実現しています。

cookieの仕組みを解説するイラスト。Webサイトへの初回アクセス時、ユーザーがWebブラウザからサイトを閲覧すると、サーバーからユーザーにcookieが発行される様子を説明しています

cookieの仕組みを解説するイラスト。2回目以降のアクセスでは、前回発行されたcookieがブラウザからサーバーに送信されます。サーバーからは前回訪問時の情報が残ったWebページが表示される様子を説明しています


自社のWebサイトで集めたCookieを「ファーストパーティCookie」、Webサイトの事業主体者とは別の第三者が集めたCookieを「サードパーティCookie」と呼ばれます。

最近、さまざまなサイトで「Cookieの使用同意」を求めるポップアップが出るようになりました。これはそのサイトでCookieを使用することへの同意をお願いしているものです。同意を選べばそのサイト上でのユーザーの行動がブラウザに保存され、ログインなどさまざまな機能に利用されます。

西川コミュニケーションズのコーポレートサイトTOPページの画像。cookieの使用について同意を求めるポップアップが出ていますCookieの使用同意を求める当サイトのポップアップ


―――CookieはWeb広告の最適化にも欠かせないものとして使われてきたのですよね。
上谷: そうなんです。例えばスニーカーのページを見ていたユーザーにはスニーカーの広告を表示させるといった、見込客を追跡してアプローチするリターゲティング/リマーケティング広告を可能にしてきたのがCookieです。ブラウザに残されたCookieを、広告を配信する仕組み側で判別し、そのユーザーの嗜好性に沿った広告を表示させるようになっています。


サードパーティCookie廃止の動きから撤回までの背景

―――それほど利便性の高いCookieですが、ここ数年は規制の流れが続いているのですよね。
上谷: Webサイトの訪問データを集めたもの=個人情報に近いという見方が存在するからでしょう。Cookieだけで個人の名前や住所を特定できるわけではないものの、ユーザーの行動を把握することはできるわけで、それを「怖い」と感じる方もいらっしゃいますよね。

―――わかります。いつの間にか趣味嗜好を把握されているわけですからね。
上谷: Cookieの使用同意を求めるポップアップが導入されるようになったのも、GDPRという世界的な個人情報保護の意識の高まりにより、日本の企業も足並みを合わせた結果です。Webサイトの利用を便利にしてくれるものであるのは確かですので、自分がこれからも利用していきたいサイトやサービスであればCookie同意をするというように、サイトごとにユーザー自身が選択できるようにしようというわけですね。

Cookieは他の情報と紐づけることで個人を特定できる可能性がある個人関連情報として、広告で利用されるサードパーティCookieについて、規制していく流れになりました。

「Safari」「Firefox」「Edge」といった各種ブラウザではデフォルトでCookieを残さない仕様になっています。(ユーザーが設定を変更すればCookieを残すこともできます)
Googleの「Chrome」でも「サードパーティCookieを段階的に廃止する」という宣言が出されていました。


―――しかし、そのGoogleの廃止方針が撤回された、ということですね。
上谷: サードパーティCookieはパフォーマンスの高い広告を配信するために非常に重要なデータです。Googleとしては自分たちの広告プロダクトとしての価値を落としたくないという思いが当然ありますよね。Cookieに代わる「プライバシーサンドボックス」の検証がなかなか進まず、Googleはこれまで何度かCookie廃止に踏み切る期限を延長してきました。

そして24年7月、サードパーティCookieの廃止方針を撤回すると発表されたんです。


―――廃止が撤回されたことでWeb広告にはどんな影響があるのでしょう?
上谷: どうでしょうか。私はあまりないと思っているんです。廃止が検討されてきた間もサードパーティCookieを使った広告サービスは使われてきましたし、今回の発表で広告の手法が一変するということも考えられません。

ただCookieを残さないブラウザが増えている点と、使用同意のポップアップで「同意しない」選択をするユーザーも多いので、Cookieを使用した広告サービスの精度は下がってきたと感じています。予算配分としてリマーケティング広告などに莫大な予算を振ることは少なくなっていくでしょうね。これはCookieの廃止が撤回された影響というよりも、Webマーケティング自体の変化ですね。


―――では、従来型のリマーケティング広告が別の広告手法に代わっていくのでしょうか。
上谷: Cookieに頼らないターゲティング手法はすでに数多く登場しています。例えば、オーディエンス(ユーザー)の属性や行動履歴といった情報を組み合わせたデータを利用してターゲティングする、オーディエンスターゲティング広告も広く扱われるようになってきました。

広告を出す側としては、その商品やサービスをより必要としてくれるユーザーに広告を出すことが目的です。数ある広告手法の中から目的に沿った方法を取捨選択してクライアントにご提案するというのが私たちの仕事であり、やっぱりそこはCookieがどうなろうと変わらないんです。




AIや自社データを活用した広告手法

―――では、今の広告手法の選択肢にはどのようなものがあるのでしょう。
上谷: やはり最近注目されているのはAIの仕組みを内部に取り込んだ広告サービスですね。私たち運用者側にAIを使っているという意識がなくても、内部で自動的にAIが働いて広告を最適化してくれる。そんな広告サービスはすでに一般化しています。

AIによるWeb広告の最適化

例えば、西川コミュニケーションズのグループ会社である「diggin」でも多く扱っているGoogleのP-MAX広告で説明します。

P-MAX広告では、まずその広告の目的、例えばECサイトで商品をご購入いただくことであれば商品の購入をゴールとして設定します。さらにバナーやテキスト、一日あたりの配信金額の目安などをセットすると、目的を達成するためにどんな人に向けて、どの媒体で、いつ広告を表示するのがいいのかをAIが判断して、自動で広告を出してくれるんです。

P-MAX for Stor GOALの詳しい説明はこちら
Web広告→実店舗への集客をより効果的に。「diggin」が進めるO2O向けWeb広告とは 


―――AIもユーザーが見ているページからその人の興味関心を把握しているのですよね?
上谷: ページの内容から、そこでどういった行動をとっているのかまで、幅広いデータからユーザーの関心の方向性を判断しているのだと思います。動画なら視聴したか/スキップしたかはもちろんのこと、再生していた時間の長さまで計測しているようです。

クリエイティブ面でもAIの活用は進んでいて、Googleの広告メニューの一部では広告見出しや説明文を自動生成することも可能です。

広告のバナーを生成AIに作らせることもできます。私が担当している案件でも、Stable Diffusion(ステイブルディフュージョン)やMidjourney(ミッドジャーニー)といった画像生成AIで作られたバナーも利用しています。AIによる効率化やターゲティングの精度の向上は急速に進んでいることを感じますね。

海も空も青く澄んだ美しい南の島の海辺を、両親と小さな子ども二人の4人家族が歩いている後ろ姿の画像 カフェのテーブルの上にフルーツを使ったスイーツが載っている。背後には親子の姿がぼんやり見えている画像
Web広告用に画像生成AIで出力した作例


―――そこまでAIの活用が一般化しているのですね。
上谷: 以前はターゲティングやクリエイティブ(バナー・コピーなど)を広告運用者が細かく調整する手間が大きかったのですが、システムの自動化・AI化が進んだことで運用自体は誰にでもできるようになってきました。
こういった状況の中で広告パフォーマンスをあげていくためには、広告の配信システムを理解した上で、ユーザーの体験ベースで思考しながらキャンペーン※を設計することが求められています。

※キャンペーン:ここではWeb広告を管理するための単位のこと。それぞれに予算やターゲット、配信期間などが設定されている。

自社データの活用も重要

自社データの活用も重要です。例えばGoogle広告の「カスタマーマッチ」では、顧客のメールアドレスからその方々と属性や趣味嗜好が近しい存在、つまり顧客になってくれる可能性が高そうな方をAIで判別して探し出し、広告を配信することができます。

最近ではCDP※のような、自社で取得したデータを集約して分析するツールも注目されています。メールアドレスや名前、住所、電話番号といった顧客情報は、ターゲティングの重要なデータになるんです。

※CDP(Customer Data Platform):企業が保有する顧客一人ひとりの属性データや行動データなどを集めて分析するためのプラットフォーム。


―――顧客情報を集めてデータ化することは非常に重要、ということですね?
上谷: メールアドレスや名前、住所、電話番号などを登録いただく最大の機会はユーザー登録です。ユーザー登録の集めやすさは業種やターゲットによって大きく変わりますが、登録をしていただけるかどうかは、そのWebサイトがユーザーにとって有用かどうかにかかってきます。

当然のことなのですが、ユーザーに必要とされる商品やサービスを作りましょうという話になっていきます。見やすい、 わかりやすい、使いやすいWebサイトのユーザー動線の設計も重要です。そして、その商品をより必要としている人たちに知ってもらうため、さまざまな手法の中から目的に沿った方法を選びましょう、という。

そういった意味でも、やはりGoogleがサードパーティCookieの廃止を撤回したといってもやるべきことは変わらないのだと思います。



Webマーケティングの今後

―――では、ユーザーにとってはどうでしょう。こういった流れを受けて、Webの利用に何か変化はあるのでしょうか。
上谷: まず、Cookieの使用に関してユーザーがサイトごとに選択できるようになってきたという大きな変化がありましたよね。CookieはWebサイトの利用を便利にしてくれるものですし、Cookieが使えなければ機能しないサービスも存在します。自分にとって使い続けたいサービスやWebサイトなのかどうかを考え、同意/非同意を選んでいただければと思います。

広告については、ターゲティングを最適化していくことで、ユーザーの利便性も上がります。自分の趣味や嗜好性にマッチした商品の広告が表示されるのは便利ですよね。
ユーザーは自分に適した情報を得られるようになる。クライアントは顧客をより効率よく集められるようになる。広告の最適化は、ユーザーとクライアント双方のメリットになります。


―――そのためにも、広告を出す側は最適な手法を選んでいくということですね。
上谷: 広告だけでなく、全体として「誰に」「何を」「どうやって」見せるのか、が重要です。今は、GoogleやYahooだけでなく、Instagram、Amazon、楽天、LINEなどのプラットフォーマは、多くのユーザーのログイン情報を保有しています。Cookieに頼らなくても最適な広告を出せる場所が増えています。

デバイスで言うと、PCよりスマホに、多くの時間が使われています。さらにブラウザで検索するだけでなく、SNSで情報収集して購買の意思決定をするような行動が一般化しました。

広告はユーザーの可処分時間の多いところに費用を配分します。広告の効果を高めるには「どんな人に広告を見せるべきか?」を深掘りしていくことが重要だと考えています。


―――やはりCookie規制に関わらず、より効果的な広告をと考えれば必要なことは変わらないということですね。
上谷: はい、広告の運用を開始するハードルは非常に低くなっているものの、よりよい効果を生むには、適切な選択や、配信の設計について考えるべきことなど、どんどん変化していると感じます。

ご相談内容によりますが、3C(競合・顧客・自社)を整理したり、来店したお客様の体験を想像することも重要ですね。「競合他社」を想像する時、例えば、飲食店なら、近隣の飲食店だけでなく、フードデリバリーも競合になる場合もあります。ユーザーが求めている嗜好や喫食体験によるとは思いますが。ターゲットが求めている嗜好性を踏まえてクリエイティブを作成したり、「誰に」「何を」「どうやって」見せるのかを、広告だけでなく、全体を通して考えていかなければなりません。

その企業や商品にとって、どのようなマーケティングの設計が良いのか。ビジネスとしての「勝ち方」を踏まえたうえで、広告の立ち位置を決めていければと思います。

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上谷桂一

西川コミュニケーションズ
モビリティ営業グループ
主任

B to Cビジネスの、企画・ソリューション営業を担当。
Webマーケティング領域でSEOや広告・SNSを扱う。
プランニング・ディレクション・実務運用など幅広く経験。