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危険な事故を事前に疑似体験し、労働災害を未然に防ぐ。NICO×さまあが取り組む、VR安全教育とは
3DCG 2023.10.26

危険な事故を事前に疑似体験し、労働災害を未然に防ぐ。NICO×さまあが取り組む、VR安全教育とは

労働災害を未然に防ぎ、従業員の安全を確保することは、企業にとっての重要な責務。各企業でさまざまな教育や研修が実施されている中で、いま注目されているのが、VRを利用した体験型のコンテンツです。

2023年7月に西川コミュニケーションズ(NICO)のグループ会社となった株式会社さまあでは、このVRによる安全教育のコンテンツを数多く制作してきました。今後はNICOの持つ3DCG事業のノウハウを加えることで、より教育効果の高いコンテンツ制作を目指しています。

そこで今回は、NICOの3DCG事業のセールスマネージャ―であり、現在は株式会社さまあのCEOでもある辰己裕之と、さまあの創設者であり現在はCTOとして開発業務を担う多治見卓にインタビュー。VRによる安全教育とはどのようなものなのか。活用のシーンや導入のメリット、そして開発を目指す新サービスなどについて話を聞きました。

株式会社さまあについて

―――まず、株式会社さまあとはどんな会社かについて教えてください。
多治見: さまあは「あたりまえのことはしません」をモットーに、0からコトを生み出す技術者集団です。主な業務は、XR開発、業務システム開発、ゲーム開発など。プログラムのみの受託開発はもちろん、企画・制作・単体テスト・結合テストに至るすべての工程をカバーしています。

ゲーム系/エンタメ系アプリ開発分野における豊富な経験を踏まえ、Webシステムや一般的なビジネス系システム開発とは大きく異なる開発アプローチで、お客様のご要望を叶える高効率&高品質な開発を進めています。

株式会社さまあ(公式サイト)
https://www.samaa.co.jp/

■事業概要
・XR分野(AR / VR / MR)アプリ開発
・ビジネス系システム開発
・各種エンタメ系アプリ開発
・ゲーム系アプリ開発
・観光/地域活性事業向けアプリ開発
・教育関連向けソフトウェア開発
・Webシステム開発 など

XR(AR / VR / MR)についてはこちらの記事をご覧ください
ビジネス活用が進むXR技術とは? VR・AR・MRの違いと活用事例を紹介 


―――西川コミュニケーションズがさまあをグループ会社として迎えることになった背景を教えてください。
辰己: 西川コミュニケーションズでは、2016年に3DCG事業を立ち上げました。以来、販促向けのフォトリアルな3DCG制作や、3DCGの効率的な制作を可能にするシステムの自社開発などを行ってきました。またHMD(ヘッドマウントディスプレイ)等のハードの販売も手掛けています。

それらの販売活動を通じてさまざまなお客様とお話しする中で、ソフト面、中でもゲームエンジン(Unity)を用いたコンテンツ開発の強化が不可欠であると感じるようになってきたのです。そこで、Unityエンジニアが多数在籍している「さまあ」を、2023年7月にグループ会社として迎えることになりました。

NICOの3DCG事業について、詳しくはプロダクトページをご覧ください
3DCGプロダクト&サービス|西川コミュニケーションズ

多治見: Unityによる開発はさまあの得意分野ですからね。さまあとしても、これまで実現したくても会社の規模的な問題で手が出せなかった領域へのチャレンジができると期待しています。そんな相乗効果を目的に、今回のグループ会社化となることにいたしました。

NICO×さまあで取り組む、VR安全教育とは

―――その相乗効果のひとつとしてまず期待されているのが、VRによる安全教育だと聞いています。これはどういうものでしょう?
多治見: 実際に起こりうる労働災害や事故といった危険なシチュエーションを3DCG動画で表現し、HMDを装着して自分が本当にその場にいるかのような没入感で疑似体験していただくというものです。

労働災害の防止のため、各企業でさまざまに工夫されている安全衛生教育の中の一つですね。導入企業は年々増加していて、さまあでも特にここ数年、注力してきました。

【さまあのVR安全教育コンテンツの事例】
https://youtu.be/TC2BWkFPRV4
電柱に昇って機械の点検を行う現場において、突風が吹いて電柱から落下してしまう事態を再現したものです。※明電舎さん確認ののちにロゴなしのものに差し替え予定


辰己: VRを利用した研修といえば、小売業のお客様対応の研修などにも幅広く使われ始めていますが、ここでいうものは特に従業員の生命や身体の安全に関わるような労働災害を未然に防ぐためのコンテンツを指しますね。

多治見: 労働災害の怖さを感じていただくことで、人為的なミスを減らしていくことが目的ですからね。
ほとんどの場合で、労働災害は人為的なミスが原因で起こっています。ただ、資料を見せて座学で注意を呼び掛けただけでは、どうしても危機感を持つことが難しい。そこで、没入感のあるVR動画で危険なシチュエーションを疑似体験し、作業に携わる人のちょっとした気の緩みに対して注意喚起をしていこうというものがVRによる安全教育です。

労働災害が起こりうる、すべての企業で活用可能

―――VRによる安全教育はどういった業種や場面で使われているものなのでしょう?
多治見: 労働災害は現場での作業があるすべての企業で起こりうるものですから、活用の範囲は幅広いですね。ただ、中でも多く使われているのはどこかといえば、建築や土木、製造業などでしょうか。機械操作にはどうしても危険が伴いますし、高いところからの落下や、何かの下敷きになる、挟まれるなど、事故のバリエーションも多いですから。そのほかでは、農林水産業や鉱業、電気・ガス、運輸業でも多く使われています。

実際の事故事例をベースにした、よりリアルな再現映像

―――VRによる安全教育で扱う労働災害には、例えばどんなものがありますか?
多治見: さまあでこれまで制作したコンテンツでいえば、化学薬品工場で起こった静電気爆破や、機械の大きなローラーに腕が挟まれてしまう、ボイラーから蒸気が噴出してやけどを負うなどの事故ですね。いずれも実際にあった労働災害がベースになっています。


―――なるほど、実際に起こった労働災害だと思うと、リアリティがあるし、いっそう怖さを感じますね。過去事例からコンテンツが作られることは多いのでしょうか?
多治見 多くの場合はそうではないでしょうか。上にあげた例は受託開発ですので、まずクライアントから「こういう労働災害のシーンを作ってほしい」という過去事例をいただくことからスタートしました。

ただ、過去事例としてデータが残っているのは事故の部分のみで、そこに至るまでの詳しい流れまでは情報がありません。事故までの具体的なシナリオはさまあで考えていますので、まったく過去事例と同一ではありません。


―――具体的なシナリオというと、事故に至るまでの作業をさまあさんで考えられているのですか?
多治見: もちろん細部はクライアントや労働災害の専門家に監修していただいていますよ。さまあもしっかり勉強させていただくものの、作業の詳しいディテールなどは監修なしでは現場の人から見ておかしいものになりかねませんから。

例えばクレーンで鋼板を吊り上げるにしても、吊り角度は何度以内にしなければならないとか、まず少し吊り上げて様子を見るとか、細かい作業の決まりがあります。そういったところはクライアントや監修先から教えていただきながら作っています。


―――そこまで細かく監修を受けているのですね。
多治見: 実際の現場に近いものになっているかどうかで、リアリティや没入感はまったく違ってきますよね。工場や機械といったビジュアルも含めて、ディテールの再現は非常に重要ですし、さまあとしても注力しています。

VRによる安全教育のメリット

―――では、VRで安全教育を行うことのメリットにはどんなことがありますか?

①現実ではコストやリスクの面で再現が難しいような場面でも疑似体験できる

辰己: これは3DCGそのもののメリットとも共通する部分ですね。高所からの落下や、工場の爆発といったシチュエーションを現実で再現しようとしたら、膨大なコストがかかりますし、何より危険です。それが3DCGで描かれたVR動画なら、現実よりずっとローコストで、かつ安全に再現できます。

命の危険がある事故を再現して疑似体験するなんて、バーチャルでなければ無理な話です。VRを活用するメリットといえば、まずやはりこれでしょう。

②受け身になりがちな座学より、意欲的に体験してもらえる

多治見: 私としてはVRが本来的に持っているエンタメ性も大きいと思っています。労働災害の怖さを感じてもらうことが目的ではありますが、ちょっとしたアトラクション感覚があることも確かなんです。

楽しむと言ったら語弊がありますが、人間の心理をうまく突いた見せ方が可能です。座学でただ話を聞くだけよりも、心に訴えやすいのではないでしょうか。

―――確かに、座学で安全について学ぶとなると身構えますが、VRでの体験にはおもしろさがありますね。
多治見: さまあでは、ゲームでいうマルチエンディングのコンテンツを作ったこともあるんですよ。ユーザーのとる行動によって迎える最後のパターンが違うんです。ルールどおりの操作を選択できれば事故が起こらないのですが、1カ所でも間違った操作を選ぶと事故を起こしてしまうというものです。事故の程度は、小さいものから大きなものまで何パターンか用意して、なかなか凝ったものになったと思っています。

事故体験のパート後に、簡単なテストがついているコンテンツもありました。今の事故はどこにミスがあったのか、正しいやり方はどうすればよかったのかと問われるというものです。労働災害の怖さを体感するだけではなく、教育もセットで行えるパッケージになっています。

さまあはもともとそういったゲーム性を取り入れたコンテンツ制作が得意だということもあるのですが、一般的に見てもアトラクション感覚があることはやはりメリットといえるのではないでしょうか。

多治見さん本文用.jpg

VRによる安全教育が注目される背景

―――なぜVRによる安全教育が注目されているのでしょうか?

①座学だけでは労働災害の怖さを伝えられない

多治見: クライアントからよくお聞きするのは、座学だけではどうしても危機感を伝えられないということです。もちろん座学も必要なんですよ。しかし、やはり実感が伴わないと、労働災害がどれほど怖いものなのか、自分事として捉えるのは難しいということだと思います。

②現場経験の不足から、従業員の安全意識が低下している

辰己: 近年は特に外国人の派遣労働者が増えており、そういった方々への教育に役立つというお話もよく聞きますね。外国人労働者は言語の壁もあり、どうしても安全に関する情報が行き渡りにくいという課題があります。感覚的に理解できるVRなら言語による壁も低く、より危険性を理解しやすいのではないでしょうか。

また人手不足で現場の技術が継承されていない、現場の数が減って経験が不足しているといった課題にもVRによる安全教育は期待されています。

③リアルに集合して現場教育を行うのが難しい

多治見: やはりコロナ禍の影響も大きかったです。コロナ禍で対面での安全衛生教育が大きく制限された中でも、VRなら人と会うことなく教育を実施できましたから。VRによる安全教育そのものはコロナ以前からありましたが、コロナ禍を経て注目度は増していると思います。

④企業のコンプライアンス意識の高まり

辰己: それから、コンプライアンス意識の高まりも背景にありますよね。大きな労働災害が起こればニュースとして報じられ、従業員に適切な教育がされていたのか、現場の手順は適切だったのかといった部分も社会から大きな注目や批判を浴びます。企業にとって、労働災害は従業員の安全を脅かすばかりではなく、社会的なダメージを与えるものでもあるんです。近年は特にその傾向が強い。

多治見: 特に建築や土木の現場での大事故となると、そこでの作業がすべてストップしてしまって、関係各所に影響を与えることも少なくありません。経営的にも大打撃ですよね。会社として従業員にしっかりと教育していくことは、ますます必要になってくる。

辰己: 安全衛生教育がしっかりできている会社でなければ、仕事が取れなくなってきているという話も聞きます。さらには今や投資のスタンダードになりつつある「ESG投資※」にも関わってきます。そういった社会的な背景もあり、VRによる安全教育はますますニーズが高まってきているのです。

※ESG投資:環境(Environment)や社会(Social)に配慮した事業を行い、適切な企業統治(Governance)がなされている会社に投資をすること。

辰己さん本文用.jpg

NICO×さまあで作る、新たなVR安全教育コンテンツ

―――今後、VRによる安全教育の導入企業はますます増えそうですね。
辰己: NICOでも、3DCG事業を進める中でVRによる安全教育の認知度やニーズが高まってきていることを感じています。労働災害の防止に欠かせないものになっていくでしょうね。

さまあにはUnityの開発実績があり、NICOにはフォトリアルな3DCG制作のスキルや、システム開発のノウハウがあります。これらを組み合わせることで、より教育効果の高いコンテンツを提供していきたいです。

―――さらに、VRによる安全教育の新たなサービスを作る計画があるともお聞きしています。
多治見: これはさまあとしても考えていることがあるんですよ。たとえば、自社オリジナルの安全教育コンテンツが簡単に作れるような仕組みです。

現在、VRによる安全教育はサブスクリプションによるサービスが主流です。あらかじめ複数のコンテンツが用意されていて、教育を行いたい企業がその中から希望に近いものを選ぶという形ですね。

ただこれだと、用意されているコンテンツの中には本当にやりたいことがなく、近いものを妥協して選んでいるということがよくあるんですね。自社のニーズに完全に合致したものを求めるのなら、フルオーダーで作るしかありません。これはコストや時間がかかります。

そこで、誰でも簡単にドラッグ&ドロップでカスタマイズして、自社の設備や人員にぴったり合ったオリジナルコンテンツが作れるようになったらいいと思いませんか。

辰己: それもおもしろいですね。新サービスについてはまだまだ始まったばかりですが、両社の得意分野を組み合わせて今までにないユニークなものに挑戦していこうとしていますので、ぜひご期待いただきたいです。

もちろん、受託開発による制作はすぐに可能です。安全教育や研修のコンテンツの導入を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。

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お問い合わせ

辰己裕之

西川コミュニケーションズ株式会社 ソリューション事業部 セールスマネージャー
兼 株式会社さまあ 代表取締役CEO

NICO入社以来、13年に渡って大手広告代理店様のSPツール・事務局業を担当。7年前のNICOのCG事業の立ち上げ時からCG案件に携わり、それ以来XRを中心に活動中。2023年さまあと出会い、お互いのエッジを活かした協業体制を構築している。

多治見卓

株式会社さまあ 代表取締役CTO

大学時代にインベーダーゲームの動きに興味を抱いたのを機にプログラミングの醍醐味に魅了され、コンピューターメーカーへ就職。CAD/CAMアナリスト、情報処理系SEを経て、ゲームクリエイターの道へ。外資系ゲームメーカーにて開発部プログラマー、品質管理マネージャーとして勤めたのち、海外勤務を経て、2007年に株式会社さまあを設立。現役プログラマー歴43年。